公共事業投資の善悪論は、ここでは置いておいて
今、私が考える費用対効果が高い公共事業投資を具体的に述べてみたい。
それは、都市鉄道の複々線化および線形改良(急カーブの解消)である。(特に首都圏)
首都圏に住んでいる人なら分かると思うが、通常は、都心まで30分程度の所要時間が、朝ラッシュ時においては、倍近くの時間が掛かっている現状がある。
ちなみに首都圏の鉄道の利用人口は、合計50,707千人/日、その内、定期券利用は4000万人/日弱(h12年 少し古い)
通常時と朝ラッシュ時の時間差を時間損失として社会的な損失額を計算してみる。
計算の仮定として
損失時間:仮に1000万人が毎日30分の時間損失(朝、夕のラッシュ合計)をしていると考えると 1000万人×0.5h=500万時間/日
時間単価:2,000円/h (便益評価で考えるとしては安め)
1日の損失額は、500万h×0.2万=100億円/日
一日100億円の時間損失が発生していることになる。
年間では、週末を除いて250日として、250日×100億円=2兆5000億円/年となる。
さらに、30年の累計は、2.5兆円×30年=75兆円
社会的割引率4%として30年間の損失総額を現在価値に換算すると
損失総額(30年):75兆円×0.6(社会的割引率補正)= 45兆円
これは、あくまで仮説であり、前提条件や計算方法により結果はかなりの差が出てくるだろうが、いずれにしても社会的損失は数十兆円単位になると思われる。
(少なめに仮定して計算している。:実際は線形改良による効果は、朝ピークだけでなく全時間帯におよぶが考慮していないなど)
仮に45兆円の損失として、4兆円の投資で都市鉄道のラッシュ時の遅れが解消できれば費用対効果はB/c>10 ととんでもない値となってくるはずである。
では、なぜ鉄道会社各社単独によるラッシュ時の遅れ時間解消のための大規模投資が行なわれにくいか考察すると(各社で努力、投資はしています。語弊のないように)
①ラッシュ時遅れ時間解消の投資<収益増 が明確でない
沿線住民には、代替的な交通手段がない場合が多いため、ラッシュ時の遅れ解消に比例して利用人数は必ずしも増えない。料金値上げも難しいので、投資をペイするのは難しい可能性がある。
②資金調達のコストと投資リスク
投資は膨大な額および長期に渡るため、一企業ではリスクが大きすぎ、結果として資金調達コストが増大する。
③土地収用と合意形成の困難さ
用地取得ができず一部区間が不通になるだけで、全体の投資が無駄になってしまう。
民間企業ではこうした事業リスクを負担しきれない。
よって、一企業には負いきれないリスクに対して、公共投資のスキームが上手く組み合わされば、大きな社会的利益を生む可能性があると思う。
新たな公共投資の枠組み pppスキームとも言える。
このpppスキームの課題を考察してみると
①JR、私鉄など、民間企業の事業に公共投資することの公平性
税金を民間企業の事業に投下することに対して、他の競合路線や交通機関から不平・不満が間違いなく高まる。しかし、公平性の確保のため何もやらないのでは、社会的損失は解消しないだろう。
民間企業への税投下の枠組みには、法的な整備が必要である。具体的には、公益的私企業認定の制度、投資基準と収益配分基準の確定、事業投資の議会での決定と事業の公益宣言(議会による)といったものだ。
②投資のスキーム(リスク負担とコントロール)
民間に負いきれない部分のリスクを公共が負担するのが目的である。また、投下したお金が正しく使われているかのモニタリングとコントロールが効く仕組みが必要になる。
具体的には、SPC(特別目的会社)のような仕組みである。
SPCに資本投資して、事業リスクを負担するとともに、株主として経営にコントロールを効かせる。また、劣後かつ低利子の長期貸付により、SPCへの貸付リスクを減少させて民間金融機関からの資金調達を円滑かつ、金利を下げる。これにより、レバレッジが増大して、税投下額の数倍の事業投資が実施可能になる。
また、リスクを公共が負担する代わりに、事業により企業収益が増大した場合には、その収益を株主配当として国に還元する仕組みが必要である。
③事業リスクの回避
事業リスクとしては、用地確保と合意形成が一番困難になってくるはずである。
よって、pppの事業化を議会での議決した後、公益宣言が出されて、公共事業と同じ土地収用のプロセスが行われるようにする必要がある。
※公益宣言は、フランスで行なわれている公共事業のプロセス、コンセッション呼ばれる半民間企業(ppp)による公共事業においても事業化開始とともに行なわれる。
公益優先の原則から、公共事業同等の土地収用のプロセスが適用される。
最後に
公共投資は、当然、国の財政の長期的な投資能力に基づいて決められるべきだが、成長戦略を考える上で、予算の枠内で、費用対効果の高い事業に優先的に投資されるべきだと思う。こうしたスキームは国内のpppとしてあらたな可能性を秘めている。