2011年11月8日火曜日

原発事故からみる巨大独占事業者の意思決定構造の考察

 今回の、原発事故で、電力事業者の安全軽視体質が指摘されている。
 このような意思決定構造がどうして生じたのか考察してみたい。

 まず、日本の電力事業者の経営意思決定への外部からの影響を考察してみると

 日本の電力事業者のサプライチェーンは、「発電」、「送電(供給地へ送る)」、「配電(各家庭に供給する)」、「最終消費者に売る売電」、および「それらを統合する部署」 を地域ごとにすべて保有しており、地域独占的な巨大企業である。
 消費者は、代替的な選択権がないため、供給側が強気で、消費者の意見が経営に取り込まれる可能性は低い。 

 また、株主の影響力を見ると、東京電力株式の場合、最大株主は、某信託銀行で、持ち株比率は5.5%(2011.3.31)となっており、株主が分散しており、経営意思決定に大きな影響を及ぼせるとは考えにくい。

 結局、外部から経営意思決定権に影響を及ぼさせるのは、許認可や規制権に関連する行政と政治家ということになるが、これは、天下りや献金、選挙応援で運命共同体となっている可能性が高い。

 ここから、「外部からの経営意思決定への影響が少ない企業」=「組織内部の論理でのみ経営意思決定が決まる組織」であると考察できる。

 次に、このような企業の経営陣はどうやって決まるのか考えてみたい。
 極論として、①「企業の利益を最大化する能力を持つ人」、②「出世したい人」の2種類の人がいたとして、どちらが経営陣になるだろうか?

 自分の考えでは、②「出生したい人」となる。
 通常の企業であれば、株主利益を最大化するために「利益を最大化する能力を持つ人」を経営者にしようとする力が働く、ここでの利益とは、事故等の損失リスクも含めた長期的利益の最大化である。
つまり、消費者サービスを高め、事故や不祥事など社会的損失を回避しないと、競合に負けて、淘汰されてしまうためである。

 ところが、独占企業では外部からこのような力は働かない。組織内部の論理で経営陣が決まる。
 組織内部の論理で、どうやって経営陣が選ばれるかというと、「組織の中のパワーバランス」である。
 つまり、徒党を組むことと、社員の支持、みんなに好かれることである。
 よって、社員の支持を集めるために、社員の利益を最大化した人、良い労働環境と福利厚生、そこそこの給与、終身雇用と年功序列、などに努力を注力させる人、身内を守ろうとする人が出世する。

 逆に言うと、社員以外は、どうでもよくなってくる。選民思想的な発想になる。危険な作業は下請け、孫請け、メーカーと重層化し、また、社員の給与水準を守るために、臨時雇用や外注を増やし、社員と同じ仕事をさせても給与は半分とかそういう感じだ。
 (これは、大企業病、あるいはお役所的なところ全般に言える傾向だが。)

 究極は、「出世したい人」である有名大学の文系出身のエリートが、徒党を組み、排他的な仲良しクラブになり経営陣を順送りで、交代していくようになっていたのではないか。

 発電、送電、配電、売電、その他多部門を抱える巨大企業で、さらに発電事業の中でも、水力、火力、原子力と分かれるため、経営者にしてみれば、現場の声や、事故リスクも届きにくい、また、安全対策は、損失を回避するだけで、直接的な利益には結びつかないので消極的になりやすく、安全軽視体質になる構造的な仕組みがあったと言える。

 万が一に事故が起こった時の対策を考慮していなかったとされるが、「絶対安全です」といっていれば絶対事故が起こらないと思っていたのであろうか。
 事故が起こった場合の対策、上屋の換気装置(水素排気)や予備の純水タンクの準備、予備電源装置の準備など、数十億程度の安全対策をしていれば事故はずっと小さくて済んだかもしれない。


 次に、その2で、廃炉決定が遅れたのか意思決定を考察してみたい