2011年11月8日火曜日

組織はなぜブラックボックス化するのか(秘密主義の科学)

 孫子に「敵を知り、己を知れば~」という有名な一説がある。

 これは、誰もが本能的に知り、実行している。
 自分の弱点は秘密にしたいし、他人の弱点は誰もが興味を持つが、これは生存に有利になるからだ。
よって、あらゆる組織において秘密主義になりブラックボックス化が進む強い引力のようなものがある。

 具体例としては、共産主義の秘密主義について、ポーランドの関係者が、「秘密にすることなど何もないが、何もしていないことを隠すためになんでも秘密にするのだ」という話や、旧ソ連も、軍の情報化に遅れ、実は「張り子のトラ」であることを隠すことが重大機密だったという話もある。

 過去のサラリーマン経験や、経営コンサル経験からみると、ほとんどの企業でブラックボックス化が起こっている。

 営業と技術がお互い何をしているのかわからないし、部の中でも、部長は何をしているのか、だれも知らず、部長は、部下の仕事の結果の数値だけ知っているが過程はしらない。

 同僚同士も、お互いの抱えている仕事を知らないので、お互い助けもしない。効率を上げるノウハウも教えないし、データの共有もしていない。チームとしての力は全く発揮していない。
 
 このように、部署や支店、支社それぞれ分かれてみんながブラックボックス化し、さらに個人が自分の職務をブラックボックス化している状態になっている。

 このようにブラックボックス化が進むのは、その方が居心地がよいからである。

 お互いの仕事には口出ししないで、みんな好きなようにやる。

 部長は、管理情報や部員の客観的業績すべてブラックボックスにしてしまえば、自分の地位を脅かされることもなければ、気に入らない部下は、いくら業績をあげても、周りはわからないし、部長の主観で低評価にできるので、部下はいいなりになるしかない。

 また、部員もそれぞれの職務を、秘密のベールで覆ってしまえば、客観的成果数値が上がらなくても、何とでも言い訳できる。自分だけ特別に難しい業務だとか、ひどい顧客だとかそんな理由はいくらでもある。

 企業の場合、この状態だと効率が低下していって、どこかで破たんが来る。
��以前、私がいた会社のように)
 破たんのリスクのない組織では、どこまでも非効率化が進んでいく、自己を正当化するための要らない仕事が増えていくだろう。

 さんざん経営の勉強をしてきて、こんなことを書くのもなんだが
ほとんどの企業の経営改善において、最新の経営理論や、難しい知識は必要ない。
現状を正しく認識し、経営目標を共有できれば、自然に答えは解る。

 現状の仕事のやり方・フロー、職務、実績、成果、それぞれ一目瞭然にしてしまえば、目標達成のために、どこを改善すべきかは、だれでもわかるからだ。

 よって、経営の改善においては、正しい現状の定義、いわゆる「見える化」が一番重要な第一歩になる。
 ブラックボックス化した組織のままでは、どんな高度な経営理論の実行を社長が指示をしても、「がんばったけど、できませんでした」という状態になってしまうだろう。

「経営コンサルを入れたけど、何も成果が出ない」というのも同じような理由だ、多少セミナーして、紋切り型にちょこちょこやったところで何も結果はでない。

 最近はやりでもある「見える化」であるが、実際に行うと、非常に大きな抵抗を受ける。
 見える化は自分の弱点を晒す行為であり、あるいは、上手くいくノウハウをみんなに晒すことにもなるので本能的抵抗を呼ぶ、「忙しくてそんな暇はない」とか「自分の仕事は特別だから、表現不可能だ」なんていう人もいる。
 また、今まで、やりたいようにやっていたのに、管理が強化されると警戒される。
 中小企業では、営業の日報すらない会社も多いが、日報を導入するだけで、大騒動になることがある。

 実現には、社長がリーダーシップを発揮して、見える化のメリットを啓蒙し、合意を形成する必要があるだろう。
 また、やり方も工夫する必要がある。見える化には、現場の人間の関与が不可欠であるが、現場を良く知る有望な人、組織全体の利益を理解し、自分の属する組織の利益に縛られない人材を見抜くことが重要になる。

 そして、じっくり時間をかけて、本当に現状に近い状態を、見える化できれば、成功に向けた大きな一歩になるだろう。